絶対領域






「本当だよ。こんな嘘を好んでつく奴いるかよ」



……ごもっともです。


だけど、やっぱり想像できない。

翠くんと僕じゃ、似ても似つかないし。




「こう見えても、俺、中学の時は根暗でガリ勉だったんだぜ?」



「ダウト!」

「だ、ダウト……だよね?」

「ダウト。話を盛るのはよくないよ、みーくん」



「ちょっ、萌奈まで信じてないの!?嘘じゃないって!本当の本当に、マジでガチで、そうだったんだってば!」




疑いの眼差しを寄せる僕たちに、翠くんはだんだん語彙力をなくしながらも、必死に訴える。



根暗とかガリ勉とか、今の翠くんには全く当てはまらない。



昔はこんな風じゃなかったの?


翠くんも「変わりたい」と願っていたの?




「見た目もこんなんじゃなくてさ」



ふんわりした黒髪の左に、映える赤。

唯一の鮮やかな色が、視界の端っこにかかっていた。



「中学1年まで、髪型は七三でメガネかけてて、なんつーか……こう、もっさりしてて。いかにもって感じだった。案の定、いじめっ子からは格好の餌食にされるし、毎日散々だったよ」



そう言いつつ、翠くんを纏う雰囲気は終始穏やかだった。



僕とは違って、翠くんは過去を引きずっていないんだろう。


過去は過去だと、線引きできている。



それが羨ましくて、妬ましくて。

もどかしかった。