絶対領域







予定よりちょっと遅くなっちゃったな。


せーちゃんに連絡入れてなかった。


結構待たせちゃってるかも。

早く行かないと!




生徒玄関で靴を履き替え、急いで校舎を出る。


校門にもたれかかっている、パーカー姿の人影を見つけて、足を速めた。



「せーちゃん!」



黄緑色からモスグリーン色に移り変わっていく髪を、さらりとなびかせて。


せーちゃんが、こちらを向いた。



ホッと胸を撫でおろして、大きく手を振ってきて、私も小さく応えた。



「姉ちゃんっ!」


「遅くなってごめんね」


「ううん!」



せーちゃんは咄嗟に頭を左右に振り、私の手を握り締めた。


安堵を噛みしめてから、もう一度、朗らかに呟く。



「……ううん、いいんだ。俺も今来たところだから」




嘘だ。


だって、せーちゃんの手、冷たいよ?



きっとここで、1時間くらい待っていたんだ。



“あの時”みたいにいなくなったんじゃないか、何かに巻き込まれたんじゃないか。

最悪な事態を脳裏に浮かべながら、不安に駆られていたんでしょ?




「……嘘つき」


「嘘じゃねぇよ」


「外、寒かった?」


「全然。平気だよ」




とろけるような甘い笑顔で、優しい嘘を吐き続ける。


それなら、私は騙されてあげる。



せーちゃんの震えた手を、空いてるほうの手でくるんで、温めてあげる。