絶対領域






「アズに告白するとか、ありえな~い」


「お前が言うな」


「はあ~!?」



ピアスを揺らして笑っていたゆーちゃんは、しん兄の呟きを聞き逃すことなく、キッと睨みを利かせた。


しかし、しん兄は黙々とお弁当を食べている。



「……だが、」

おもむろに、箸が止まった。




「荒れてた頃のあずきを見たら、一瞬で好意が恐怖に変わるだろうな」


「そうだね。それこそ、今朝みたいに普通の女の子があずきに告白するなんて、ありえなくなるだろうな」




しん兄とバンちゃんは、昔のあず兄を知っているんだ。


私のいなかった“あの時”の、あず兄を。



話だけは、聞いたことがある。




“あの時”、あず兄は必死に私の行方を捜して。


大切なものを削って、好きなものを捨てて、自分を犠牲にして。



その反動で、荒れに荒れて、真っ黒な世界に身を売ってしまった。




チクリ。

心臓にトゲが突き刺さる。


深く、深く、えぐられて。


あどけない涙は、枯れていった。




「ありえねぇのは、俺だけじゃねぇだろ」