あず兄にどれだけ想われていても、それに気づいてしまっても。
私はそう簡単に、“あの時”を過去のものだと決別できない。
ごめんね。
この言葉さえ、誰にも贈れやしないんだ。
……そうか、もしかしたら。
あず兄からもらった、あの天使と悪魔のオルゴールは、呪いをかけたのかもしれない。
決して“あの時”を忘れられないように、記憶を止める呪いを。
私とせーちゃんとあず兄と……オリに。
あず兄は何ごともなかったように、私を教室まで送り届けてくれた。
「授業頑張れよ」
いつもより辛そうだったのは、勘違いなどではないだろう。
クラスの女の子たちは「アンニュイな花宮先輩もかっこいい!」と黄色い声を漏らしていた。
私には、どうしても、それが嘘にしか聞こえなかった。
……あぁ、胸が痛い。



