「俺には、お前がいればいい」
甘美に、堕とす。
その心は、響きは、壊れやすくて。
ひどく残酷で、純真な、枷のよう。
『俺、好きな奴がいるんだ』
――知ってるよ。
私を守りたがる本心も、私にだけ甘い理由も。
私にとってのオリが、あず兄にとっては私であることも。
「……私は同じ気持ちを返せない。応えられないよ」
知ってたけど、拒んだ。
知ってるから、受け取れなかった。
「それでも、いいの?」
ずるいね。
私も、あず兄も。
お互いにこの関係にすがってる。
「ああ、いいよ」
頭から、あず兄の手が離れていく。
視線を上へずらした。
灰色の双眼が潤んでいる気がした。
「お前がそばにいてくれるなら、お前のそばにいられるなら、それでいい」
ミルクティ―色の髪の表面から、あず兄の温度が徐々に消えていく。
いなくならないでくれ、と言わんばかりに。
案じないでいいよ。
前にも言ったでしょ?
「大丈夫。どこにも行かないよ」
オリを見つけて、会えても。
オリが自由にならない限り、どこにも行けない。
私には、何もできない。



