絶対領域





胃だけじゃなく、胸まで痛くなってきた。


間近で失恋を目撃してしまったら、そりゃ文化祭前日のワクワクな気分になれっこない。


憂鬱な気分だ。




「……もういいでしょ、離して」



つんけんとした素振りで、あず兄の手を右腕から払いのける。


周りの野次馬は「告白だ」「修羅場だ」と好き勝手喋りながら、だんだん散っていく。



「空気を読めないのか、気が遣えないのか。どちらにしても、乙女の勇気を台無しにするなんて最低だよ」


「真顔で毒づくな。胸が痛い」



それは私も!

無関係なのに無理に立ち会わされた私の身にもなってみてよ!


絶対、さっきの女の子に嫌われた……。




「わざわざ引き留めなくたってよかったじゃん」



ご機嫌ななめにボヤけば、金色に彩られたワンレンの前髪が揺れた。



「世奈に頼まれたからな」


「え?」


「萌奈を教室までしっかり送り届けろ、って」



下手くそな笑顔。

苦しいなら苦しいって吐けばいいのに。


隠して、平気なフリを装ってる。