絶対領域






寝室の扉が、いやに静かに閉ざされた。


姉ちゃんはごくりと息を呑み、気まずそうにする。



「……萌奈」

「は、はい……」


ピリピリしたあずき兄さんに、姉ちゃんはビクッと肩を上げた。



俺とあずき兄さんは、ずっと、我慢してた。


さっきの路地の陽気な騒がしさに、水をさしたくなくて。




ゆらり、あずき兄さんの長い腕が、姉ちゃんに伸びていく。


姉ちゃんはげんこつされるとでも予想したのか、避けようとせずに、固く目を瞑った。



「バカやろう……!」


「っ、……あ、ずにぃ?」



腕は、姉ちゃんの背中に回され、姉ちゃんを抱き寄せた。


予想が外れ、姉ちゃんは目を開けて、ぱちぱちと瞬きをする。



「……無事で、よかった……」



溜め込んでいた憂いを絞り出した呟きは、ひどくか細く、震えていた。




あずき兄さんの腕の中にいる姉ちゃんには、知る由もない。


今、あずき兄さんがらしくなく、泣きそうな顔をしていることなんて。