「……強く、なったな」
「お、オリ……っ」
その賑やかさの中、緋織にこっそりと囁かれ、姉ちゃんは涙目になって儚く微笑んだ。
「……うん、強く、なったよ」
俺とあず兄だけは、一笑もできず、その様子をただただなぞっていた。
澄んだオレンジ色に、だんだんと影が帯びていく。
夕闇がすぐそこまで迫っていた。
どちらともなく、そろそろ解散する流れになった。
「……今日は、その、手ぇ貸してくれてほんとありがと、な」
双雷との別れ際、翠を呼び留めて、嫌々ながら改めてお礼を告げる。
「どういたしまして!まあ、ほとんど何にもしてないけどな」
「それは、俺たちも同じだ」
「手柄はぜーんぶ、萌奈のもの。すごいよなぁ」
翠は、ちらりと姉ちゃんを一瞥して、あからさまに顔に羨望を表した。
俺には、お前みたいにはなれない。
純粋に尊敬できる気持ちなんか、とうに褪せてしまった。
弱かったはずの姉ちゃんが強くなっていたということは、そうなるしかなかったのだろう。
きっと、俺が唯一そばにいなかった、“あの時”に。
別に強く在ろうとしなくたっていいのに。
俺が、俺たちが、守ってやるのに。
そう願えば願うほど、姉ちゃんが抱えるものが大きく、重く、苦しくなっていく。



