絶対領域





……なんだ、これ。



足元には、ガラの悪い連中が倒れていて、ピクリとも動かない。


ただ、真ん中に一人だけ、優美に佇んでいる。

ある歌を、口ずさみながら。



「姉、ちゃん……?」



逆方向から、双雷のメンバーもやって来た。


俺たちと同じように、この状況に驚き、真ん中にいる姉ちゃんを呆然と見つめている。




「♪~~♪~~」


姉ちゃんは俺たちが駆けつけたことに気づいているのか、いないのか。

悲しそうに、苦しそうに、愛しそうに、歌を歌い続けた。




この、歌……。

あずき兄さんがあげた、オルゴールの曲だ。



確か、あの曲の名前は――ショパンの「別れの曲」。





姉ちゃんの近くで、不良が一人、息も絶え絶えになんとか立ち上がった。


奴は奇声を発しながら、姉ちゃんを襲い掛かる。



姉ちゃん、危ない!殴られる!

喉まで出かかった声が、あふれる前に、


「ほら、やっぱり」


透き通った歌声が、止んだ。




「私に何かするなんて、不可能だったでしょ?」




姉ちゃんは不良の拳をさらりとかわし、舞い踊るように片足を振り上げた。


脇腹を勢いよく蹴られて、不良の体は路地の壁にぶつかる。

その際に後頭部を打ち、気絶してしまった。