純真~こじらせ初恋の攻略法~

どかっと椅子に座り、大きなカバンの中から何冊もファイルを取り出していくエースさん。

こちらから声をかけた方がいいのだろうか。

「あのぅ……」

恐る恐る声を掛けてみると。

「なに」

私を見る目がなんだか……怖い。

「……なに?橘茉莉香さん」

聞こえてたんだ、という安心感よりも、名前を呼ばれた瞬間の自分の動機に驚いた。

名前を復唱されただけなのに、どうしてこんなに胸が騒ぐんだろう。

戸惑いを隠せない私を、彼はずっと見つめている。

その視線が耐えられなくて、私は思わず俯いてしまう。

バクバクと音を立てる心臓をなんとか鎮めたくて、私は小さく深呼吸をした。

「お名前……教えていただいてもいいですか?」

いつまでも『エースさん』などと呼ぶわけにもいかない。

名前を聞くだけなのに、こんなに近況したことなんて一度もないが、勇気をだして聞いてみた。

素直に教えてくれるものだと思いきや。

「はぁ?」

彼は思いっきり眉を寄せて私を睨むかのように捉えた。

……え。

この空気はなに?

ただ名前を聞いただけなのに、どうしてこんな顔されなきゃならないの?

誰かに助けを求めようにも、横はデスクトップパネルに仕切られてしまっている。

この二席だけパネルがないということは、この向かいがワンセットということなのだろう。