「あいつ!」
文利が追い掛ける。
勢いよく出て行く武尊と、孝太郎の病室へ向かう凪美子が雇っていた岩路と、通路で出会い頭にぶつかりそうになったが、声を掛ける間もなく、武尊は素早く交わして行ってしまった。
病室では、床に落ちた花束を拾う凪美子。
拾いながら、さっき冷たくあしらったことを後悔した。
孝太郎はそんな母親の姿を見て、母が最近楽しそうにしていた理由は、武尊のせいだと気付く。
そこに、岩路が入って来た。
「孝太郎君、退院おめでとう! よく頑張ったね!」
孝太郎に向けて岩路が言った。
「ありがとうございます」
すっかり回復した孝太郎は笑顔で答えた。
「ところでさっき、英君とすれ違ったんですが」
岩路が、呆然と立ち尽くす凪美子に声を掛けると、
「へっ⁉」
岩路の声が耳に入っていなかった。
「英君、大活躍ですね? ほんとよかったですよ、犯人が捕まって。彼に感謝してあげてください! 誰よりも一番駆けずり回って証拠を見つけ出したんですから! 彼が、英君が勝ち取ったと言っても、過言ではないでしょう」
岩路の言葉に、武尊が陰で目撃者捜ししていたことを初めて知った凪美子。



