それから孝太郎が退院を迎えた当日、武尊も久しぶりに顔を出した。
病室のドアを開けた、ちょうどその時、
「田村君、ほんとにありがとう」
凪美子は文利の肩に軽く手を置いて、絞り出すように言った。
入って来た武尊に気付くと、
「あぁ! 武尊君もありがとね」
久し振りに会った武尊にはよそよそしく、何となく冷たかった。すぐさま息子の方を向いた。
武尊は、棒立ちになったまま、体が脱力し、持っていた花束を落とした。
――武尊君(も)⁉
凪美子の言葉が胸に突き刺さった。
「ふっ!」
呆れたように武尊は笑った。それから、
「僕はそんなに頼りないですか? てか、所詮僕なんてそれ程度の存在ですよね。分かってたけど……」
分かっていたけど、やはりショックだった。
息子、孝太郎に挨拶すらさせてくれず、回復の喜びさえ分かち合えない。
文利の「同情だ! 勘違いするなよ!」あの時の言葉が頭に過った。
同時に自分の存在が虚しく思えて来た。
言い放ったあと、そのまま武尊は病室を飛び出して行った。



