そんなある日、病室の前に来ると、何か穏やかな笑い声が聞こえて来た。入ると、事故の話を知ったのか、文利が来ていた。
久しぶりに凪美子の笑顔を見たようなが気がする。
入って来た武尊に気付くと、
「武尊君、就活はちゃんとしてるの?」
毎日来る武尊が、大切な就活をそっちのけにしてるのではないかと気になり、凪美子は不意に聞いた。
「……。」
何も答えない武尊に、
「私のことを心配してるなら、私は大丈夫だから。武尊君は今やるべきことをやってほしいの! それに、ここにはあなたのやるべきことは何もないから」
息子の方に向き直して、少しでも脳に刺激を与えるため、息子の手をマッサージし続けた。
冷たくあしらわれたような感覚に陥る武尊。
でも、彼女の必死で看病している姿を見ていると、自分がもし同じ状況なら、自分の母親もきっと今の凪美子と同じようなことをするだろうと、その姿を自分と母親に重ねた。



