武尊は薬を処方され、あの鈍い痛みから解放された。
そして退院をして、しばらくカームクロのバイトは休むように、それと、今武尊がすべきことを優先してほしいと、凪美子から言われる。
つまり、卒論や就活に励むこと、体を第一に考えてほしいという、凪美子なりの思いが込められていた。
しかし、武尊は心のどこかで、文利の言葉が残っていたのか、凪美子は自分から、距離を置こうとしているに違いないと、疑うようになる。同情から始まり、今自分は不必要になった。
――凪美さんは僕といても、幸せを感じていない。凪美さんが幸せじゃなきゃ意味がないよな……
凪美子の思いは、武尊には届かなかった。
武尊がそんな気持ちでいるなんて、思いもせず、凪美子は連絡を取り続ける。
今までは必ず返事をくれていた武尊から、メッセージを送っても、既読にはなっても、返事を返して来なくなって行った。
「忙しいのかしら?」とそれ程度にしか、考えていなかった凪美子だった。
武尊からの連絡が途絶えがちだったこと以外、何も変わらない、そんな日々だった。
少しだけすれ違う二人に、ある事件が起きる。
それは突然だった。
その事件が二人をさらに引き放そうとしていた。



