「オレ、お前のこと、外見も含めて悪く言ったこと、一度でもあったか? 他人に外見のことならともかく、何でオレの家の事情まで話すんだよ。オレはお前だからと思って話したのに、残念だよ」
武尊の顔つきは、冷静に見えたが、その言葉に、静かな怒りを感じた文利。
「あえて言わせてもらうけど、凪美さんは、誰に対しても、優劣をつけるような人じゃない。相手の人柄を、中味をちゃんと見る人だ。それに、遊び慣れた感じも一切なく、不潔な人じゃない! 大人で愛情深く、オレの欲情も大きく受け止めてくれる人だ!」
武尊の遠回しな言い方に、二人が深い関係であることも、思い知らされる文利。
「それと、そういうがぶ飲み止めろよな? オレのこと詮索する前に、自分の体のこと考えて、少しは痩せろよな!」
初めて武尊は文利を見下した。
武尊に対して優劣をつけるなら、自分が優だと思っていた文利は、劣である武尊からの言葉に、憤りを覚えた。
「俺は太ってない! 骨格が大きいだけなんだ!」文利は自分に言い聞かせた。
武尊の言葉を、心の底で燻ぶらせる文利。
ものに小さなズレが生じると、ちょっとした揺れから瞬く間に大きく歪んで行く。
それは人の心にも言える。
小さな誤解が招く、疑心からの大きな亀裂。
至る所に負の連鎖が広がって行く。



