家の前まで着くと、
「英君の家ってここなの?」
「はい」
「このレストラン、ソンニョって結構有名なお店よね?ここのお家の子なの?」
「はい。そんな大したもんじゃないです。その隣が家になってるんです。イタリア語で夢って言うんですけど、現実見ず、夢ばっかり見て、何も掴もうとしないから、今じゃ閑古鳥が鳴いてますよ。開店休業、栄枯盛衰」
前を見たまま冷めた目で、武尊は言った。
「経営って難しいから」
凪美子は文利の話を思い出しながら、気を使って答えた。
「そうですね」
投げやりに発したあと、「今日はどうもありがとうございました」と凪美子の方を見た。
――っ……!!
ハンドルを抱えたまま俯く、たおやかな横顔に、ドキッとした。
「いいえ、どういたしまして!」
と不意に、武尊の方を向いた凪美子。その表情は、さっきとは違って、凛としていた。
間近で見た、目鼻立ちの整った顔に、さらに魅了された。
彼女の何気ない仕草や表情は、彼女が生きて来た中で自然に備わったもの。
凪美子の女の魅力、その一部に触れた感じだった。
紫とは違って、大人の色気を感じた。



