彼女のセカンドライフ


今年の春は、とても雨が多かった。

季節も節目が分からないまま、梅雨入りした。

ある夕暮れ時、バイトからの帰り道、向かい側から、小さな女の子の手を引いて歩いて来る、親子が近付いて来た。
 
すれ違う瞬間、お互いに思わず「あ!」と声を上げた。立ち止まり、

「確か~合同説明会で~」

女性が先に声を掛けた。

「はい、英武尊です。えっと、岡本さん?」

紫に手を引かれた女の子が、口をポカンと開けて、武尊を見上げていた。
 
しばらく二人は立ち話をした。

「岡本秀 奈(ひい な)です、お兄ちゃんに挨拶して?」

母親に言われ、その子はつたない言葉で、自分の自己紹介をしてくれた。

紫には、三歳になる秀奈という娘がいた。

「秀奈を保育所に迎えに行って、夕飯の買い物をしてその帰りなの」

秀奈を優しく見つめながら岡本が言った。

「そうなんですか」

武尊は視線を秀奈に向け、

「秀奈ちゃんって言うんだ? 保育園楽しい?」

話し掛けると、大きく頷いて笑い返した。

武尊は秀奈の頭を軽く撫でた。