「凪美さんの匂いだ」
凪美子の肩にもたれた武尊。
そっと手を回した凪美子は、痩せ細った肩にショックを受ける。
「凪美さん、今幸せ、じゃないよね? ごめんね、僕がこんなだから」
口癖のように言っていた武尊の言葉。
「幸せよ? とっても。だって武尊君と一緒だから」
武尊に向かって凪美子が笑い掛けると、武尊は微笑んだ。
「凪美さん」
「ん?」
「ありがとう」
「うん」
ここへ来てから、不思議なほど、武尊は痛みを訴えることがなかった。
緩和治療の効果なのか、もしくは、痛みを訴えるほどの体力もなかったのか、本当のことは誰にも分からない。



