外を眺めることが多くなる武尊。
「外は寒そうね」
傍に座る凪美子が言った。
しばらく窓の外を見ていた武尊が、
「凪美さん、桜が綺麗だよ、花びらがあんなにも舞い散ってる」
「えっ⁉」
見ると外は、枯葉が揺れ、木々が寒さに身を縮こまらせている。
「お母さんと子供が、手を繋いで歩いてる。楽しそうだ」
武尊は幻覚を見ていた。ましてここは病院の五階。
「しだれ桜、見たいな」
呟く武尊。
「体が楽な時、一緒に見に行きましょ?」
それを聞いて、武尊は薄っすらと笑って頷いた。
それからまた、窓の外を眺める武尊。
「凪美さん、家に帰りたい……」
ボソッと武尊が言った。初めての武尊の我がまま。そして凪美子の方見て、
「凪美さん、僕、死にたくない! もっと生きたい!」
弱々しい声で、本音を言った。
すがるように、武尊の瞳が潤んで揺れた。
凪美子は、その言葉に、胸が押しつぶされる思いで涙を堪えた。
武尊を抱き寄せ、背中をさすり、しっかりと抱き締めた。
――人はそれぞれ、見合った試練を与えられると言うけれど、神様! あんまりではありませんか! まだこれからという青年に、ひどすぎる! 代われるものなら代わってあげたい!
誰にも何にも当たれない、行き場のない怒りと悲しみだった。



