「ううん、あなたに会いたいって言われるのが怖くて、今以上に息子が遠くに行ってしまいそうで、予防線を張っていたのかもしれない! 息子を取られたような思い……!? 馬鹿げてるわ。こんな風になるまで追い詰めて」
無表情で一点を見つめながら、でもその目には涙が浮かんでいた。
親なのに、子供が苦しんでいる時に何もしてやれず、情けないと、最後ポツリと武尊の母は言った。
自分の不甲斐なさを嘆く母親に、頷きながら、涙を拭う凪美子。
その気持ちが痛いほど分かった。
「ごめんなさい。余計なことばかり話して。ほんとにごめんなさい」
武尊の母親の気持ちを知り、凪美子自身も武尊に会いたかった。
躊躇う理由はなくなり、次の日、凪美子は武尊に会いに行った。
「凪美さん! 会いに来てくれたんだ」
凪美子の顔を見るなり、嬉しそうに笑って武尊が言った。
その声に反応して、武尊の方を見ると、武尊は赤いキャップを被っていた。
それから、近くへ行くと、武尊は帽子を取り、
「ハゲちゃったよ」
笑って見せた。
凪美子は、武尊の顔を見て、
「可愛い顔が、一層幼くなった感じ。素敵よ」
笑って返した。
照れながら、武尊はまた帽子を被って顔を隠した。



