「突然、ごめんなさい」
俯いたまま、向かいに座る凪美子に、武尊の母が言った。
それに反応して、「いいえ」と首を横に振る凪美子。
「あなたに、こんなことをお願いする義理はないのだけれど、どうか、武尊に会ってやってください」
一瞬言葉を疑った凪美子。
武尊がもう長くはないことを、母親は凪美子に聞かせた。
もっと前向きだと思っていた事実に、凪美子はショックを受けた。
毎日、どんな思いで、武尊が治療に臨んでいたか、また痛みに耐えながら、日に日に弱って行くことや、そんな風になりながらも、どんなに凪美子に会いたがっていたか、それを知りながら、会いたいと言わない、親に心配を掛けまいとする、息子の気持ちに、自分は満足さえしていたと言う。



