抗がん剤治療が進むにつれて、副作用も強くなり、当初覚悟していたものより、想像を絶するほどだった。
嘔吐や下痢を繰り返しつつ、苦しいだけの毎日。
ただ、検査をして、絶望的と思われていた〝 がん細胞 〟が小さくなっていると言われ、希望が持てた。
その小さな希望にすがり、必死で耐えた。
次第に口の中は、口内炎だらけになり、水を飲むだけでも染みた。
目から涙を滲ませながら、ゆっくり、ゆっくり、細くて白いストローを使って武尊は飲んだ。
治療を始めてから、二週間が過ぎた頃、髪の毛が抜けはじめ、
「一度坊主にしてみたかったんだ。頭の形に自信がなかったから、やらなかっただけ。髪の毛全部、バリカンで刈ってくれ」
笑って武尊は言った。
抗がん剤治療を始めてから一切、武尊は泣きごとも愚痴さえも言わなかった。
むしろ前向きで、周りが逆に勇気づけられるほどだった。
痛々しいくらい、ひた向きだった。



