彼女のセカンドライフ


抗がん剤治療初日、武尊は副作用と思われる、発熱が出た。

二日三日となるにつれ、気怠さや吐き気、疲れやすくなり、食が進まなくなっていた。

でもまだ、耐えられないほどではなかった。

そんな武尊に、一人の男性が訪ねて来た。

凪美子の息子、孝太郎だった。

「母のこと、許してやってくれないかな」

突然孝太郎の言葉に驚く武尊。

「息子の俺が言うのもなんだけど、英君と母は、ほんとに運命なんだと思う」
 
続け様に話す孝太郎。

「僕も最初はそうだと思い込んでた。でも違ったみたい。それにあの人のことはもうとっくに気持ちから排除した。心にも残ってない」

淡々と話す武尊。

「そうかな? あんな必死で目撃者捜ししたのに、そう簡単に忘れられるかな。母のためだったんだろ?」

「同情だよ! 必死で息子を看病する彼女の姿見てたら、自分と母親が重なって、そしたら、胸が痛くなった、その気持ちを追い払いたくて、必死になっただけだよ」

武尊の、理屈とも取れる返事を聞いて、孝太郎は、深く息を吐いた。

「それでも、必死で目撃者捜ししてくれてありがとう。母も俺もどんなに救われたか」

それを聞いて、武尊は頷いた。

孝太郎は、帰り際に、「最近の母、今まで見たこともない笑顔をするんだよね。それにとても穏やかなんだ。きっと今ほんとに幸せなんだと思う。それって、英君に会ってからなんだよね」 言い残して出て行った。