「あ、孝太郎、息子の事故の事、ずっと目撃者捜しをしてくれてたの? 何も知らなくてごめんなさい。それと、ありがとう」

「いえ、別に。息子さんが回復されてよかったです。それと自分のためにやったようなものだから気にしないでください」

「それでもありがとう。武尊君の気持ちも考えず、辛く当たったりして……それとね? もしよかったら、うちの会社受けてみない? 武尊君ならちゃんとやって行けると思うし、向いてると思うの」

凪美子は最初から武尊を、正社員として迎えるつもりでいた。

「せっかくですけど、その話お断りします。それにもう、ぼくと蓮見さんは何の関係もないですから」

「えっ⁉」

凪美子は耳を疑った。

「振り回してすみませんでした」

武尊は一礼をして、背中を向け歩いて行った。

凪美子は声をかけそびれ、遠ざかって行く武尊の後ろ姿を見送ることしか出来なかった。

何だかそれが、二度と会えない、武尊が手の届かない所へ行ってしまいそうな気さえした。