「俺の言葉が違う。今、こんなやりとりをすべきじゃない」
「なに言ってるのかわかんない」
「翠、この前は悪かった。嫌な言い方をした」

私は驚いて豪の方に顔を向けた。
豪が謝った。仕事とかそういう面じゃなく、自分の態度や接し方を謝った。これって出会って初じゃない?

「売り言葉に買い言葉で感じの悪いことを言った。すまなかった」

私の方が一歩引いて大人の対応をすべきところを、豪に先にされてしまった。でも、これはチャンスだ。私だって豪に伝えなければならない。

「……私の方こそ、えっと、……ごめんなさい。勝手に苛々して、態度が悪かったと思う」

私が素直に謝ったことは、豪にとっても驚きだったようだ。こちらを見る目が見開かれている。

「翠の口からそういう言葉を聞くのは初めてだ」
「こっちのセリフよ」

私たちは顔を見合わせ、ふっと笑った。

「あのな、変な気をまわさなくていいんだよ」

わずかに言い淀んでから、豪が続ける。

「20歳を超えてから、特定の女とは付き合っていない。翠がいるから」

豪は私を見つめて言う。表情は苦笑いだ。
なんだ、そうなんだ。豪はちゃんと線引きしていたんだ。それなのに、私が勝手に豪の不貞を疑っていただけなんだ。恥ずかしいような申し訳ないような妙な気持ちで私はうつむき、小声で言う。

「私もそうだから」

豪に疑われるような男性関係は今までただの一度もないけれど、それを釈明するのはなんだか嫌だから、言葉すくなに答える。