「俺が他の女性と食事に行ったり、深い関係になっても、翠は問題がないんだな」
「高校から豪はそうでしょう?慣れてるわ」
「お互い様だな」

その言葉に翠がぎらっと怒りを閃かせた。

「あんたと一緒にしないでくれない?」
「同じだろう」
「違うわ」

無言。俺も翠も目をそらし、黙り込む。
俺自身も苛立っていて、翠をデートに誘う気なんかもうどこにもなかった。怒りにまかせて、俺はポケットから祭にもらったチケットを取り出す。
長机に滑らせるように投げた。

「斎賀の家のためにおまえとは友好な関係でいなければならない。仕事のうちだと思えば多少我慢もできるが、無暗に時間を共有するのはお互いのためにはならなさそうだ」

ばん、とチケットに手をつき、俺は翠をねめつけた。

「祭りからふたりで行けともらったものだ。おまえがどこぞの男と使えばいい」

子どもっぽい態度だと理解しつつ、気持ちを抑えきれない。
翠は唇をわななかせ、俺を睨む。

「婚約者のポーズで誘われなくて、本当によかった。二度とくだらない用事で私を呼び出さないで」

翠はチケットを受け取らず、踵を返した。

「あんたと結婚しなきゃならないなんて、今からストレスで死にそうよ!」

オフィス側ではなく廊下側のドアをばたんと勢いよく開け、翠はがつがつと足音を響かせながら出て行った。