不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました

私たちは隣のセミスイートを取り、動向を確認する予定だ。会合はスイートの室内で行われるのかもしれないと踏んでいる。
私が客室に詰め、豪がエントランスやロビーで張り込み、最終的には合流する予定だ。会合の証拠は私たちの目視と、数枚写真があればいい。三人そろっている写真は、スイートの室内での会合なら厳しそうだけれど。

別なエレベーターに乗り込み、同じ15階フロアで降りた。先に降りた鬼澤夫妻は、スイートルームの方向へにこやかに歩いていく。私は気づかれないように、その後ろ姿を撮影した。手のひらにおさまる小さなカメラで。

「まるで普通の人みたい」

鬼澤は小柄で大人しそうな男性だった。身なりがいいから、ハイソサエティな生活をしているのはわかるけれど、裏で莫大な金を操ったり、部下に罪をかぶせて尻尾きりするような人間には見えない。
隣を歩くふくよかな奥様とも仲が良さそうだ。ぱっと出会ったら感じのいいご夫婦に見えるだろう。
本当にこの男が悪事を働いているんだろうか。……それを確認するのが仕事なんだから、先入観なしで挑まなきゃね。

鬼澤夫妻が部屋に入るのを確認し、私はそっとそこへ近づいた。ドアに最下部にシールを一枚貼りつける。シール型の盗聴器だ。室内の音声は聞こえないけれど、ドアが開けば音でわかる。近づく足音もわかる。
この15階フロアはスイートルームとセミスイートしかない。ドアスコープがあれば、スイートの出入りが監視できるけれど、このホテルにはない。
盗聴みたいな法律スレスレの捜査はしたくない。しかし、公的な証拠にはならないけれど、捜査手法としては一応認められている。
プライベートな音声を聞かないのは絶対だ。