不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました

「不妊なんて女側だけの理由じゃないだろ?俺の方の問題かもしれない。できなきゃ相手を変えろって、動物かよ」
「でも、おじいさんは黙ってないんじゃない?」
「騒がせておけばいいさ。いずれ、猛さんが斎賀の当主だ。猛さんは否定しない。不妊治療してみて駄目なら、分家から養子をもらえばいい」

私が驚いたのは、豪が結構考えていたってこと。その場の思いつきで言っているんじゃないと思う。普段から私との結婚後のことをちゃんと考えているんだと思うと、新鮮な気持ちになった。

「それとも、翠は俺と縁が切れるチャンスがあれば、そっちの方がいいか?」

聞き返されて、なぜか私は慌てた。そりゃ、豪と離れられるならそれはそれでいいかもしれないけれど……。

「ウエディングドレスは一生に一回で充分。相手変えてもう一回なんて、面倒は嫌よ」
「すぐに再婚できると思っている自信がさすがだな」
「当然でしょ。引く手数多だっつうの」
「結構なことだ」

豪が口元を緩めて笑っていた。さっき、中華料理店で見せた演技の笑顔じゃない。豪が私に見せる笑顔はこんなあっさりした感じ。でも、この笑顔が一番長く見てきた笑顔だから、私としてはなんとなく安心する。