不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました

「局長に気を遣わせっちゃって申し訳ない気分になっちゃった。今、子どもを作らないご夫婦は普通よね。ご夫婦だけで世界が完結してるふたりっているもの」
「それもな」

豪が言葉を一度切って、数瞬の間の後に続けた。

「猛さんのところは子どもができなかったんだ。というか、奥さんの幸恵さんは、若い頃病気で子宮も卵巣も取ってしまったそうだ」
「え、そうなんだ」

私は何度か会ったことのある局長の奥様を思い出す。細身でしゃきしゃきしていて笑顔の素敵な快活な女性だ。一般企業で部長職をしていると聞いた。局長みたいな素敵な男性のパートナーにぴったりという印象だった。

「猛さんはそれを知った上で、じいさんや曾じいさんに隠して結婚した。知ってるのはごく一部の身内。子どもが望めないとわかれば、連中は絶対反対するだろう?」

確かにそうだろうな。私のことも『斎賀の本家血統を残す分家の嫁』って扱いだし。女性の扱いが人権無視なのだ。

「幸恵さんのことを調査したりしなかったのかな」
「当然、斎賀の外の人間だから、前科前歴、傷病歴、素行、借金の有無まで調べられるさ。うちの親父とじいさんの秘書がごまかしたんだよ。結託して、あがってきた調査報告を改ざんした。特に秘書の矢向さんはじいさんと特務局にいた人間だ。そのへんは得意なんだよ」
「へえ、豪のお父さんも秘書さんも、局長の恋を応援してたんだ」

斎賀の中にも心ある人がいるって話は嬉しく感じる。血筋を残すことが結婚じゃない。大好きな人とずっとずっと一緒にいることが結婚だもん。