「お疲れ様」

駅前のコーヒーショップで待ち合わせた。翠は先にジムをあがり、ここで待っていたのだ。

「どうだった?」
「メモを取れる状況じゃないからな」

俺は席に着くなり、ノートパソコンを取り出し、先程ミストサウナ内で聞いた彼の話をまとめ始めた。

「豪にしては珍しい」

若干焦り気味にキーボードをたたいているせいだろう。俺だって万能じゃない。記憶は記録しないと保持できない。
パソコンを睨んでいる俺を尻目に翠は席を立つ。トイレかと思ったら違った。戻ってきた翠の手にはコーヒーが一杯。

「注文しなきゃ駄目じゃない」

そうだ、注文を忘れていた。翠は気を利かせて買ってきてくれたようだ。

「本日のコーヒー」
「すまん。ありがとう」
「いーえ」

俺が大部分の情報を打ち終わるまで翠は黙って自分のコーヒーを飲んでいた。

「長親はやはり鬼澤の実働部隊をやっていたらしい。最初は本人も後ろ暗いところがあったから、黙って従ったし退官も受け入れたそうだ」

忙しくキーボードをたたきながら、俺が言うと、翠がふうんと頬杖をついてこちらを覗き込んでくる。