「このジムは風呂もオススメですよ。ミストサウナとスチームサウナがあるんですが、僕はミストサウナが好きですね。熱過ぎないし空いていてのんびりできるし」

長親が何か伝えようとしている。翠もそれを感じとって話を合わせる。

「ミストサウナって気持ちいいですよね。私も今日利用してみようかしら。せっかく来たんで、もう少し運動してからにしますけれど」
「ええ、それがいいですよ。僕は毎日13時から14時半くらいまではここで運動するようにしているんです。またお会いするかもしれませんね」

14時半にミストサウナ。密会の指定だ。
彼らのすぐ近くのチェストプレスマシンに移動していた俺にもちゃんと伝わった。

「引き止めてしまってすみませんでした。ありがとうございました」

翠が明るく微笑み、再びトレッドミルの方向へ戻る。
通り過ぎる時に俺をちらりと見た表情は『聞いてたわね』という雰囲気。
聞いてたよ、まったく。どこまで仕切りたがりなんだ、おまえは。