「あの、こちらのジムに通われて長いですか?」
「まだ一年くらいです。ようやく慣れてきましたよ」

翠がふわっと微笑み、右手を頬に添える。そんな仕草は美麗だし、男を引きつけるが、本人は無意識でやっているのだから怖いところだ。

「私は通い始めたばかりなんです。あの、スタジオプログラムって参加されますか?オススメのプログラムがあれば教えて欲しいんですけど」
「いやぁ、僕はもっぱらウォーキングマシンで歩くばかりでして」

言いながらも翠が広げたこのジムのプログラム表を覗き込む長親は、やはり人が良いのだろう。彼の目にははっきり見えたはずだ。翠がプログラムに書き込んだ文字が。

『特務局の者です。例の件でお話を伺いにきました』

彼の表情がさっと変わったのは横目で見ていてもわかった。辺り伺う様子が見て取れる。

「このクラスって筋トレ系ですか?私にもできるかしら」

翠がプログラムを裏返してなおも彼にメッセージを見せる。

『男性の職員が同行しています。ロッカールームか浴室でお話を伺えますか?』

長親がうんうんと頷き自然に答える。

「そうですね。ダンベルを持ってるのを見ましたねぇ。僕もちょっと興味はあるんですよ。今度出て見ましょうかね」

会話を続けながら、長親がぎこちないながらも笑顔になった。こちらの趣旨伝わったようだ。