不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました

翌日の正午過ぎ、俺と翠は郊外のスポーツクラブに来ていた。
23区外のK市、私鉄駅からほど近い場所にあるスポーツクラブは、立体駐車場付きの大きな施設だった。
会員制のジムなので施設側には、財務省の名前で『省内の健康増進プログラムのための視察』という申し込みをしている。それも責任者しか伝わっていないので、一般のスタッフは俺たちをただのビジター利用者として見るだろう。

朝から気になっていたのだが、翠はスポーツバッグを持っている。もしかして運動する気満々なのではなかろうか。

「翠」
「なによ」
「なんでもない。着替えてジムフロア集合で」

それぞれに更衣室で着替え、二階のジムに向かう。
登場した翠はを見て俺は絶句した。なにしろ翠はフィットネス系雑誌から抜け出してきたかのような気合いの入ったウェアを着ていた。
背中が腰まで見えるタンクトップ、七分丈のカプリパンツ型のジャージ、フィットネスシューズはレインボーカラーでピカピカだ。

「翠……おまえまさかこのために揃えたのか?」

思わず呆れた声で尋ねてしまった。

「そ、んなわけないでしょ!?普段ジムに行くときの格好よ!」

翠は強い口調で返すが、こいつがジム通いをしているなんて聞いたことがない。それにあきらかにおろしたてというウェアだ。

割と格好つけだからな。おそらく、昨日スポーツジム潜入が決まって、慌てて購入しに行ったのだろう。そういえば、昨日は退勤が早かった。