不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました

事務次官・鬼澤の調査を始めて二週間が経った。
今日も俺たちはオフィスで調査業務だ。情報を集め、まとめ、精査する。非常に地味な作業の積み重ねだ。中枢で国を動かしている省庁の官僚はどこもそうだが、華々しい仕事より地味な作業の方がウェイトを占める。

「やっぱり一度接触した方がいいわね」

翠が横でパソコンの液晶を眺めながら言う。

「タレコミ入れてきた元部下にか?」
「そう、鬼澤の元部下・長親健三郎」

調査に至るきっかけとなった情報提供者だ。しかし、彼自身は退職してなお、暴力団関係者に監視されていると局長が言っていた。

「最初の情報提供はどうやってやったのかしら」

翠が首をかしげるので、答えてやる。

「地元の囲碁クラブに、偶然財務省のOBがいたらしい。その人づてに特務局の存在を知り、情報提供する気になったそうだ。普通に告発しても、古狸が逃げおおせることがわかってたんだろうな」

翠がうーんと腕を組んでうめく。

「囲碁クラブに潜入することはできるかしら。その内部なら監視が行き届いていないってことでしょう?」
「残念だが、囲碁クラブの会員は地元のリタイア世代の男性ばかりだ。俺やおまえがもぐりこんだら浮くぞ」
「確かに」

翠は再び考えこみ、急にがばっと顔をあげた。

「スポーツクラブは!?」