不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました

「ああっ！」

間抜けな悲鳴をあげる翠に、オフィスに居残っていた先輩たちが笑い声をあげた。

「朝比奈、こっちまで飛んできてるぞ」
「気合い入ってるなぁ」

翠はすいませんすいませんと頭を下げながら紙を回収して回っている。俺は足元に崩れた資料を拾い集めた。

翠はしっかり者のくせに、こういうところが抜けている。そもそも行動のひとつひとつが雑なのだ。オフィスチェアにどさっと勢いよく腰かけたり、ちょいちょい物を落っことしたり。美人なのに残念極まりない。

しかし、個人的に言えば、大慌てで周囲に謝る彼女はまあ可愛い……と思う。放っておけないというか。パーフェクトに見える翠の隙は、たぶん彼女の美麗な顔より魅力的だ。
だから、あまり他の男の前では見せないでもらいたいものだ。
それは嫉妬という観点ではなく、翠がまた恋愛に夢中になれば仕事や結婚に差し障るだろうからだ。とにかく、他の男を寄せ付けないに越したことはない。