不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました

デスクに戻ると、翠がこちらをきりっと見つめてきた。

「足引っ張らないでね」
「おまえこそな」
「最近は私の方が評価高いのよ。局長は私を信頼して任せてくれたんだと思う」

ニマニマと笑う彼女は自分がたいそうなドヤ顔をしているとは気づいていないんだろうな。小鼻が膨らんでるぞ。

いつも感じるが、翠は局長が好きだ。尊敬している。
恋愛のそれではないだろうが、局長に認められたいと常に一生懸命だ。それは一族内の問題とはまったく関係なく、翠一個人の気持ちなのだ。
だから、そんな翠の気持ちは応援してやりたい……ような気もする。

「仕事が被って無駄はしたくない。逐一報告しろ。俺は鬼澤の入庁からの経歴をまとめる」
「豪が仕切らないで。私は交友関係を調べるわ」
「鬼澤が事務次官に就いたのは昨年だ。それまでに手掛けてきた仕事で、きな臭いものはすべて洗おう」
「暴力団関係者との繋がりもね。……ってあんたが仕切らないでって言ってるでしょ」

苛々と言葉にした翠が手を腰にやり、偉そうに胸を張る。
肘が当たったのだろう。彼女の横にまとまってあった主計局に提出する資料がどさどさと音をたて、床に落ちた。さらに何枚かの薄い紙はオフィスの床を滑っていく。