「おまえらそこまでだ!」

崩れ落ちそうな俺の背後から大声が聞こえた。次の瞬間、何人もの捜査員が狭い路地から飛び出してくる。
表のエントランス付近にいた公安の捜査員たちだ。

さすがに十数名の捜査員相手では、男ふたりはなすすべもなく捕まった。

「豪!」

祭が俺のもとへ駆け寄ってくる。後ろから翠が不安げな表情で俺を見ている。

「大丈夫?」
「まあまあ」

たぶん肋骨が折れているなどとは言えない。息を吸う度に激痛で眩暈がするとも言えない。

「翠、怪我はないか?」

精一杯声を張って尋ねると、青い顔をした翠が頷いた。

「じきに局長が来る。一緒に車に乗って帰れ」

そこまで言って、いつまでもうずくまっていられないのでわざと平然と立ち上がって見せた。

「特務局の応援人員か」

現場責任者であろう年嵩の捜査員がやってくる。

「顔色悪いぞ。怪我か?救急車はいるか」
「大丈夫です」

その辺のやりとりから痛みで記憶が曖昧なのだ。どうにか受け答えはしていたものの、なんと言ったかあまり覚えていない。
祭に連れられて翠が表通りに向かう背中を見て、俺は安心してその場に膝をついた。