「お夕飯は?」
「エビ入りのシチューとスズキのソテー。お父さんがお魚食べたいって言ってたから。翠も好きでしょう?」
「うん、好き。着替えてくる」

自室で部屋着に着替えているとちょうどよく父が帰宅した。家族三人で平日に夕食を囲めることは稀だ。昔は毎日こうだったのになあと思う。自分が大人になってしまったと実感するのはこんなとき。

「仕事は忙しいのか?」

父がお箸でスズキの身を切り分けながら尋ねてくる。

「そうね。毎日雑用雑用、庶務庶務、資料集め資料集めって感じ。省庁勤務ってもっと華やかだと思ってた」

早口でまくしたてる私に、父が苦笑いする。母が横から気づかわしげに言葉を挟んでくる。

「嫌なお仕事じゃない?」
「別に?民間だって、入社して数年は雑用ばっかりでしょう?下っ端ってどこに行ってもそうだと思うわ。私の職場って、どうやっても新人は少なく上の層が厚いから」

特務局は、外部から人材登用することが多いので、新人は斎賀の一族以外では入ってこないのだ。現に私たちのあと二年は新人がいない状態が続いている。

「楽しいよ。私ってほら、優秀だから。今日も局長に褒められちゃったし」

母はほうっとため息をつき、まだ苦笑いの父と顔を見合わせた。

「翠が楽しいならいいんだけれど……」

引っかかる言い方だなと思っていたら、父が重く口を開く。

「翠に将来を選ばせてやれなくて、僕たちは申し訳なく思っているんだよ」

将来……職場すら、私には決められていた。豪と一緒に特務局に入ることがそれこそ小さい頃から決まっていたのだ。