不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました

「翠」

豪が私の両手を握った。あったかい。分厚い手のひらが私を包む。

「すまなかった。信じてほしいあまり、言い方がきつかった。おまえは悪くないのに」

豪の瞳は真っ直ぐで、情熱的なほどに私を見つめる。

「あの日、風間さんが急にマンションに来たんだ。おまえと約束した直後に。誰から住所を聞いたのか知らないけれど、たぶん田城あたりに調べさせたんだろうな。部屋に入れてというけれど、断った。マンションのエントランスから先は通してない」

風間さんは豪と過ごしていたことを匂わせていたけど、考えてみたら不自然だ。それなら豪が私の誘いに乗るはずはない。

「風間さんに会ったのよ……。豪が部屋に入れるわけないって思ったけど、部屋にいたみたいなこと言われて。それで頭がぐちゃぐちゃになって……」
「それは絶対にありえない。俺は『これから翠と会うので早く帰ってくれ。彼女に誤解させたくない。家に来るようなことはやめてほしい』と伝えたからな。たぶん、彼女の仕返しだ」

そうだったのか。あれは風間さんが私と豪を引き裂こうとした狂言だったのだ。
豪の口からはっきりと否定してもらえるだけで、こんなに気持ちが違う。豪の誠意が伝わってくる。

「豪のこと信じてるつもりだった。だから、いちいち言わないようにしたんだからね」
「悪かった、翠。でも、今度から言ってほしい。おまえがひとりで不安に耐えるのは嫌だ」