不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました

「翠、具合はどうだ?」

嘘でしょ、お見舞いにきちゃったの?
私すっぴんにパジャマですけど!そういうのはせめて連絡してよ!そういうサプライズいらないよ!
母がお茶を運んできて行ってしまうと、私たちは部屋にふたりきりになった。豪はカーペットに座り、私はベッドで上半身を起こした姿勢だ。

「おばさんから聞いたぞ。胃腸風邪だって?土曜もそれか?」
「あー、たぶん。その頃から変だったから」

私は曖昧に答えてわずかに視線をそらした。
まっすぐに豪が見られない。すっぴんだから見てほしくないって気持ちと、豪を見たらいろんな気持ちが噴出してしまいそうで。

「明日も無理しなくていいぞ。先輩方も言っていた」
「もう平気だと思う。出勤できるよ」

微妙に視線を合わせないまま、にっこり笑って見せると、反対に豪は渋い顔をする。

「おまえ、何か言いたいことないか?」
「?ないよ」
「その笑顔が嘘くさい。だいたいこういう時は、何かよからぬことを考えてるんだ」

よからぬことって何よ。よからぬ疑惑があるのはあんたの方じゃない。
でも私はぐっと口を噤んだ。
私は豪を信じなきゃいけない。苦しくても。

「豪、お見舞いありがと。ゆっくり眠って明日にはもとに戻ってるから」

そう、体調も気持ちも元通り。こんなことでカリカリしないんだから、私は。

「翠、考えてることをきちんと言葉にしろ」

豪がなおも言う。