すると、翠が泣き笑いの顔になる。

「私の方が2ヶ月年上なんだけど。お姉ちゃんでしょ?」
「こんなほっとけない姉貴がいるか、馬鹿」
「ありがとう、豪」

翠がほっとため息をついて、そのまま俺の胸の中に飛び込んできた。素直な行動に驚きと胸が熱くなるくらいの嬉しさが湧いてくる。

「勝手なことばかりしてごめんなさい」
「月曜、先輩たちの前で局長に説教食らおう。ふたりで。連帯責任だ」

俺は翠の背に腕を回した。薄い布地を通して、翠の体温が伝わってくる。

「うん、ごめんね、豪」
「気にするなとは言わないが、もういい」

俺たちはそのまましばらくそうしていた。正直に言えば、俺はちょっと危なかった。
翠とここまで密着して過ごすのは初めてで、その香りや体温を間近で感じている状態は、俺の男の本能を刺激した。何しろ、翠と添い遂げると決めて20歳から女性とは付き合っていない。そうした行為も5年ほどご無沙汰だ。

しかも相手は翠。将来の妻で、幼い頃の初恋の相手だ。
勝気な翠が露出多めの服で甘えるように抱きついてきている。据え膳とはこのことではないか。

このままソファに押し倒して、キスして……勢いで男女の仲になってしまおうか。翠だって初めてではないだろうし、いずれ夫婦になるのだから早いか遅いかの差でしかない。

しかし、俺は堪えた。
翠のことは大切にしようと決めたのだ。勢いで恋人になるべきではない。翠が俺と過ごすうちに、俺に抱かれてもいいと思えるまでは手を出すべきじゃない。