彼は私を見つけると、表情を一つも崩さずに、足並みを早めることもなく、私の元に歩いてくる。
大きな腰まであるスーツケースに、紙袋も沢山ぶら下げながら。
そして私の前に立つと‐紙袋の一つを私に差し出す。
英語でロゴが描かれた、今までに見たことがない紙袋。
私は丁寧にパッキングされたそれを開けようか迷っていたら、ようやく彼が口を開いた。
「チョコレートだよ」と。
「……なんだ。ブランドの財布じゃないんだ」
そう一瞬顔を歪めた私を見ては‐ほんの少しだけ、口角を上げた。
そしてクシュッと一度だけ、私の髪に触れる。
大きな手が頭を包んだ瞬間…私の心は、音を立てはじめる。
まるでギターの玄を一つだけ弾いたような…小さな、小さな広がっていく波紋。
やがてそれは…波が引いたように消えていくものだとしても。
「千聡、帰ろうか」
手を離した彼は、駐車場に向かって歩き出す。
私は歩幅を合わせながら、一歩づつ隣を歩いていく。
離れているわけではないし、近すぎるわけでもない、この二人の距離。
それはずっと前からの……私達の変わらぬ距離のようだ。
大きな腰まであるスーツケースに、紙袋も沢山ぶら下げながら。
そして私の前に立つと‐紙袋の一つを私に差し出す。
英語でロゴが描かれた、今までに見たことがない紙袋。
私は丁寧にパッキングされたそれを開けようか迷っていたら、ようやく彼が口を開いた。
「チョコレートだよ」と。
「……なんだ。ブランドの財布じゃないんだ」
そう一瞬顔を歪めた私を見ては‐ほんの少しだけ、口角を上げた。
そしてクシュッと一度だけ、私の髪に触れる。
大きな手が頭を包んだ瞬間…私の心は、音を立てはじめる。
まるでギターの玄を一つだけ弾いたような…小さな、小さな広がっていく波紋。
やがてそれは…波が引いたように消えていくものだとしても。
「千聡、帰ろうか」
手を離した彼は、駐車場に向かって歩き出す。
私は歩幅を合わせながら、一歩づつ隣を歩いていく。
離れているわけではないし、近すぎるわけでもない、この二人の距離。
それはずっと前からの……私達の変わらぬ距離のようだ。



