カシャッ! カシャッ!
午後の町並みに、シャッター音が弾む。
カメラのレンズが捉えるのは、今をときめく芸能人。
顔面国宝で話題の次世代スター、成瀬円。
そんな彼の弟分として仲が良い、きらきらキューティーボーイ、RIO。
来月から放送予定の月9ドラマ【純真な刃】で共演する二人。
そこで二人が専属モデルを務めるファッション雑誌で、特集を組むことが決まった。
今回はその撮影だ。
わざわざ平日の昼過ぎという比較的人通りの少ない時間帯を狙い、ロケに来ている。
イルミネーションの装飾がされた並木道。日の高いうちから色とりどりに粧され、気分を上げてくれる。写真映えも抜群で、撮影にはもってこいの場所だ。
多くの撮影班に囲まれながら、モデル二人はポーズを決めていく。
シンプルなロングコートできれいめに装う成瀬と、もふもふなファーにくるまれたかわいらしいRIO。
成瀬と5センチほど差のあるRIOが、成瀬にぎゅっと抱きつくと本当の兄弟のように見えてくる。絶好のシャッターチャンスに、何度もフラッシュが焚かれた。
一見仲良くじゃれ合っているだけに見えるが、あくまで計算。こうすれば盛り上がることを知っていての構図だ。
中学2年生のRIOは、芸歴でいえば成瀬より1年先輩にあたる。モデルのいろはを熟知しており、愛し愛されるコツを完璧に押さえている。
そんなしたたかさをまったく感じさせない、ピュアで愛らしい女顔。
先月までパーマをかけていたいちごミルク色の髪は、ドラマのため、きれいなストレートになり、ダークなチョコレート色に染まっている。胸元まで伸ばした髪の毛は、衣装チェンジのたびにアレンジを変えている。今は編み込みされたお団子だ。
ちなみに、衣装はこれで3着目。1着目は、並木道の端にあるカフェの前で、トレンドカラーを入れてモードに。2着目は、道に沿うようにある壁画で、個性的なカジュアルファッション。そして現在、イルミネーションをバックに、アウター主役のコーデを撮影している。
「はあ、顔良……」
「イケメンとイケメンのいちゃいちゃはお肌にいい」
「成瀬くん、相変わらずクールで最強」
「あざといよRIOくん、小悪魔だなあ」
「正反対なふたりだからキャラが引き立つのよね」
「しかもドラマは新選組だって? 観ます」
「和装が似合わないはずないんよ」
「やだ……ロン毛好きになっちゃう……」
スタッフの反応は上々。なぜかモデル二人を拝んでいる人もいた。
誰もが見惚れる画の数々。カメラマンも満足していた。
「円くん、さっきの表情よかったよ!」
「あざます」
「なんか雰囲気変わったよね。表情が前より生き生きしてる」
「……そう、すかね……」
3着目の撮影がひと区切りつき、カメラマンをはじめスタッフみんなから褒めちぎられる。モニターに映る写真を見ながら、あれもいいこれもいいと語り、特にハグする画を推す声が多かった。
そこまで褒められるほどのことをした覚えのない成瀬は、ロケだからみんなテンション高いのかと見当違いな考えに至る。それを見越してか、RIOも声を上げた。
「円さん、変わったよ!」
「利央、お前まで……」
「ちょっとだけだけどね!」
RIO――本名も同じ響きである利央で、成瀬がツッコミを入れると、フォローなのかディスなのかわからない補足をされた。
「いつも俺が甘えると、うげえって顔するのに、さっきはふつうにしてたもん」
「ただの慣れじゃね?」
「いいや! 俺の目はごまかされないよ! 今日の円さんは二割増しクール!」
「なんだそれ」
よくわからないけれど、同業目線の評価には謎の説得力がある。
何はともあれ、いいように転んでいるのならば問題はないだろう。



