「麗さま麗さまっ…」

私が名前を呼ぶ彼は、躊躇なく手で口を塞いできた。

「静かにして。ここは学校だから」

「…ぷは〜、それでね、麗さま!」

「お前、それわざと?」

「え?」

「何度言ったらわかるんだよ。学校では“先生”だから。それと…」

私に目線を合わせてグッと近づいてくる。

麗さまの綺麗な顔が目の前に……!

「家でも“麗さま”は禁止ですよ? お嬢様」

「そ、それなら私だって“お嬢様”呼びは嫌いです!」

頬をふくらませて横を向くと、麗さま––––霜月先生はツンツンっと頬を軽く押してきた。

「ははっ、可愛くない顔」

「し、失礼ですよ!」

顔を真っ赤にして怒る私をみて、先生は必死に笑いをこらえていた。

そういうところは、家でも学校でも変わらないんだから!


霜月 麗(しもづき れい)
彼は私の家––––七瀬家に代々仕える霜月家の長男。
年は離れているけど、小さな頃からずっと私を守ってくれる王子様。
私は昔から「麗さま」って呼んでる。
でも、その呼び方はダメだってみんなから言われて……

それは、麗さまが私の執事だからなんだって。
そんなの関係ないのに。

いつまでも変わらず麗さまは、私の王子様なんだから!


そして私––––七瀬 春菜(ななせ しゅな)は、七瀬財閥の長女。
昔からみんなに可愛がられて育ってきた。

すごく嬉しいし幸せなんだけど、お嬢様扱いされるのは本当に嫌い!

だから、ご令嬢とか御曹司が通うような“エリートお金持ち学校”には絶対通いたくなくて、パパとママに無理を言って普通の学校に通っている。

もし私に何かあった時に守れるように、麗さまは数学の先生としてこの学校にいるんだ。


これから話すのは、私がこの学校に入学して少し経った時の出来事です。