それが、まずか半月前の事だった。
千春には、昨日の事のように思い出されていた。
そして、今は念願の新婚旅行に来ていた。
千春がずっと行ってみたいと願っていた、スペインにいるのだ。
スペインのチームに挨拶にいき、秋文がお世話になった監督にも会ってきた。
「引退するのは早すぎる。日本のチーム辞めてきたのなら、ここでプレイしろ。」と誘われて、秋文は苦笑していた。
その後は、秋文が通った店や住んでいた部屋、そしてスペイン観光をして楽しんでいた。
スペイン語を話す彼を「かっこいいな。」と見つめたり、街の人々に声を掛けられて「戻ってきなさい!応援してるわよ。もちろん、奥さんと一緒に!」などと、千春も一緒に歓迎されたりと、歩くだけで笑顔になれる街だった。
地元での彼の人気をみると、千春も嬉しくなってしまう。
「秋文は、みんなに好かれているんだね。私も何だか鼻が高いよ。」
「何でおまえが嬉しがるんだよ。」
「秋文の奥さんだからね。」
千春は、ホテルの窓辺に座り、スペインの町並みを眺めながら、そう彼に言う。
千春が見つめてる先には、白い宮殿のような優雅で美しい建物。そして、赤茶色の屋根が並ぶおしゃれな煉瓦作りの街並み。
どこを見ても、千春が見慣れない景色だった。けれども、それがとても新鮮で、千春は毎日がとても充実してした。
「秋文が見てきた景色を見られて、すごく嬉しいな。ここには、私の知らない秋文の過去があるから。……そこに仲間入り出来て嬉しいんだ。」
「………じゃあ、俺もアメリカに行きたいな。」
「え?」
急な言葉に、千春は驚いた顔で彼に視線を向ける。すると、彼らしいニヤリとした微笑みとともに、ゆっくりと千春の横に立った。
そして、千春の腰を引いて自分に引き寄せる。それを千春も喜び、彼の肩に頭をコツンと乗せる。
「俺が見れなかった千春を見たい。だから、この次はアメリカに行こう。」
「……そうだね。次の夢が出来たね。」
「あぁ………家族が増える前に行こう。」
「え…………。」
「そろそろ子どもも欲しいからな。早くアメリカに行かないとな。」
「そう、だね………。」
思いもよらない彼の言葉。
秋文の思いと、千春も同じだった。
いつか、彼と一緒に家族をつくり、穏やかにそして、明るく過ごしたいと願っていた。
千春は、嬉しさのあまり瞳から次々の涙が溢れた。それを秋文が拭いながら、「次にスペインに来る時は、3人になってるといいな。」と笑った。
千春は感動のあまり、言葉にならず、コクコクと頭を動かして返事をした。
するの、秋文は「泣くなよ。」と微笑み、そして、千春の唇に小さくキスをした。
まだ見ぬ新しい家族には、パパがどんなにかっこいいのかを伝えよう。
強気で俺様だけれど、誰よりもかっこいい、ママの大好きな人なのだと。
(おしまい)



