「……おまえの事が心配なんだよ……。だから、泣くな。」
 「泣いてないよ!」
 「泣いてるだろ?」


 秋文が千春の目元を優しく親指で擦ると、溜まっていた涙がぽろりと落ちた。
 少しでも彼に優しくされてしまうと、気持ちが溢れてきてしまう。
 千春は、ポロポロと泣きながら自分の気持ちを訴えた。


 「ナンパなんてされる度に秋文に報告してたら機嫌悪くなるでしょ?……何にもないんだから、心配しないように、話さなかったのに何が悪いの?………私ってそんなに信頼ないのかな?」
 「…………あぁーもう、わかった。俺が悪かったから泣くな……。」


 秋文は頭を掻きながら、困り顔を浮かべて「おまえの泣き顔に弱いって言ってるだろ。」と、焦りながら言った。


 「私の事、嫌いになってない?」
 「そんな事で嫌いになるはずないだろ。そんなんだったら、結婚するわけない。」
 「…………私もごめんなさい。秋文は心配してくれただけなのに。なるべく言うようにするからあんまり、怒らないでね。」
 「………おまえさ、ひとつ聞きたいことあるんだけど。」
 「なに?」
 

 千春を落ち着かせるために、頭を撫でながら、言いにくそうに視線を外し、秋文は呟くように言葉を発した。


 「そんなに沢山声掛けられるのか?」
 「…………へ?」
 「だから、ナンパされるのそんなに多いのかよ。」
 

 彼が少し苛立ちながらも、心配そうに自分を見るのに、千春は少し嬉しくなってしまった。
 嫉妬して自分を心配してくれる、旦那様がとても愛しいのだ。


 「そんな事ないよ。たまたまだよ。」
 「………ほんとかよ。」
 「本当だよ!……ふふふ、心配してくれてありがとう、旦那様。」


 思わず嬉しくて笑ってしまう千春を見て、恥ずかしそうに「何笑ってんだよ……。」と秋文と言って千春の髪をくしゃくしゃと激しく撫でた。