「冷蔵庫の物、悪くなっちゃうかな~って思っていろいろ作ってきたんだけど、秋文食べる?」
 「ありがとう。おまえの作ったものなら、何でも食べたいよ。」
 「………わかった。あ、でもお皿とかないから、タッパーのまま食べようか。」
 「そうだな。」


 豪華な部屋で、テーブルの上にタッパーを広げて、箸でつっついで食べる。
 千春の秋文は、そんな姿をお互いに見て思わず笑ってしまう。


 「こんなところに泊まってるのに、こんな料理食べてるなんて、おかしいね。」
 「まぁ、俺たちらしくていいんじゃないか。」
 「そうだね。」


 どこにいたとしても、2人で一緒にいれば、いつもと同じ暮らしになる。
 それが安心できるし、幸せな事だと千春と秋文はお互いに感じ合いながら、穏やかな時間を過ごした。








 秋文は朝早くに起きてまたトレーニングをしていた。千春も一緒に起きて、朝食を頼んだり、スーツを準備したりした。

 2人で朝食を食べて、彼が出掛ける準備を手伝い、いつものようにドアまで見送りをする。


 「秋文、いってらっしゃい。」
 「あぁ………本当にありがとうな、千春。おまえと一緒にいれてよかったよ。」
 「…………どうしたの?急に……。」
 「いつも思ってるけど、なかなか言えないから言っておこうと思って。キスは、帰ってからの楽しみなんだろ?」
 「………そうだね。だから、頑張って。」
 「あぁ、いってくる。」


 千春は爽やかに笑う彼に負けないぐらいの笑顔で秋文を見送った。
 きっと、帰ってくる時も同じ表情のはずだと信じながら。



 千春は、秋文が出掛けた後、テレビをつけたりネットニュースを見たりして、秋文の事がどのように報道されているのかを見ることにした。

 そして、秋文が殴ろうとしたのが1番よくなかった事や、妻を取り合っての喧嘩だったとか、サッカーを早く辞めろと妻に言われているなど、千春が思い当たる事もない報道ばかりされていた。


 「嘘ばっかりじゃない………やっぱり報道は嘘ばかりなのかな。それとも人の噂って変わるって言うしな。」


 千春は自分でも驚くぐらいに、ショックは受けていなかった。自分が悪者になるのはいいと思っていたからかもしれない。
 けれども、彼が日本代表に相応しくないんじゃないか。
 そう報道されているのが、一番辛かった。
 
 彼の能力が失われるのは痛いといいながらも、代表選手としては相応しくないのではないか。そう報道している所がほとんどのようだった。


 「秋文………お願いだから、負けないで……!」


 千春は祈るように、秋文を思い、そして彼にその想いが届くように力強く言葉を紡いだ。