「………秋文、我慢だよ……。」


 千春は立夏と繋いでいた手をぎゅっと握りしめた。祈るように、そう呟くけれど、立夏は少し諦めたような表情だった。


 「手をあげそうになったのは、私が気持ちを我慢出来なかったせいですが、実際危害を与えてはいません。それに、そちらの相手の会社から謝罪は受けてます。」


 秋文の言っている事は事実だった。
 駿が勤めている会社は、千春の会社との関係をなかったものにされるのが困るようで、会社と秋文にわざわざ謝罪に来てくれていた。
 特に秋文とは、これから秋文の会社とのやり取りをしたいと考えていたようで必死だった。
 その事から、このトラブルは解決済みなのだ。それを、こうやって掘り返してくるの検討違いな事だった。
 けれど、聞いている人で、よく思わない人が出てくるのも事実ではあった。


 「それで、皆が納得すると思いますか?」
 「……それは、その方々が判断することで、私が決める事ではありません。」
 「だからこそ、今年度ではなく、今すぐに責任を取るべきではないですか?」
 「…………それについては、今ここで決定するわけにはいきませんので、考えていきますが、私は今辞めるつもりはありません。」
 「……わかりました。ありがとうございました。」


 問題を問い詰めたことで満足したのか、その男性記者は小さくお辞儀をして席に座った。
 秋文は、小さく息を吐いた。その額にはうっすらと汗がにじんでいた。



 「秋文………。」
 「酷い質問だったわね。文句言われたのはこっちなのに……。」
 「……世間がどう判断するか。それが心配だな。」


 千春は出の言葉を聞きながら、テレビ画面の彼を切ない表情で見つめた。
 テレビ画面の彼は、すぐに笑顔をつくり次の質問の回答をしていた。けれど、疲れの色が見え始めていたのも確かだ。




 その日から、千春と秋文の生活は一転する事になるのだった。