「スペインチームへの移籍は、秋文選手の会社の商品を売り込むために、移籍したという噂がありますが、それは本当ですか?」


 一人の男性記者の質問で一気にその場の雰囲気が変わったのをテレビ越しでもわかった。
 秋文の表情も笑顔のまま一瞬固まった。
 立夏は「引退の記者会見なのに、何聞いてるんだろうね。」と、悔しそうに画面を睨んでいた。

 「スペインで着用していたものを、販売はしていますが、宣伝のために着ていたわけではなりません。SNSなどはやっていませんし、試合にはユニフォームで出るので宣伝にはなっていないと思いますし、そのような不純な動機で移籍するわけはありません。」
 「けれど、一緒に練習していた選手には見られていたわけですよね。ジャージやら肌着など売れませんでしたか?、」
 「私が直接売ったものはありません。個人で買っているかは、把握してません。」
 「わからました。では、もう1つ質問させてください。奥さまの会社で、ケンカをされて殴りかかろうとしたという噂がありますが、それは真実ですか?そして、それが辞める理由ですか?」

 その言葉で、その場がざわついていた。

 千春の会社でのケンカの話しは、噂としてしか取り上げられなかぬた。それも、秋文の行動を支持するものばかりだったので、ここで話題に出すとは誰も思ってもいなかったようだった。
 けれど、秋文はそんな質問にもしっかりと本当の事を丁寧な言葉で伝えていた。


 「真実ですね。でも、それが原因で辞めるということは決してないです。……私の妻の悪口を聞いて我慢出にずに喧嘩という形になってしまいました。あなたも大切な人の悪口を目の前で言われたら我慢出来ないですよね?」
 「……それはそうですが。日本代表という日の丸を背負って戦う選手で、しかもそのチームのリーダーが、その相手に手をあげそうになった。それだけでも、問題ではないですか?」


 畳み掛けるように強い質問を浴びせる彼に、対して秋文の視線も鋭いものになっている。怪訝とした表情にも暗い影が出来てきた。