「………だから、何もなかったから話さなかっただけだよ?」
 「ナンパされたって事は何かあっただろ。」
 「ナンパはされたけど、それ以上は何もなかったってこと!」
 「そんなの当たり前だろ。何かあってたまるかよ!」
 「ーーーっっ!秋文のいじわるっ!」
 「おまえが悪いんだろ。」


 千春はフンッと顔を背けると、秋文もそっぽを向く。
 そんな2人のケンカを立夏は面白そうに、出は困り顔で見つめていた。
 

 「まぁ、些細なことでも報告すれば、秋文も安心するんだろう。嫉妬してるだけだから、千春も気にしすぎなくていいとは思うけどな。」
 
 出の言葉に千春と秋文が反論しようとした時だった。


 リリリリリーーー!!!

 と、目覚まし時計の音が部屋に響いた。
 千春と秋文は、突然の音に驚き、体をビクッと、させてしまった。けれども、立夏と出は全く驚いていない様子だった。
 その音は立夏のスマホのアラームだったようで、立夏は「あーもう時間かぁー。」と言って、アラームの音を切った。


 「え、時間って………?」
 「あぁ、実は俺と立夏は日帰りなんだよ。」
 「そうそう。さすがに新婚さんの夜はお邪魔になりますのでね。」
 「えっ、ええぇーー!!そんな……。」


 千春は真っ赤になりながら、悲鳴のような声をあげてしまう。
 恥ずかしさと、この険悪なムードのまま2人きりになってしまう気まずさで、どうしていいかわからず助けを求めた。
 けれども、立夏は「もう1回温泉に入ってから、電車で帰るからー!じゃあ、ごゆっくりー。」と言って荷物を持って部屋を出ていってしまう。出も心配そうにしながらも「仲直りするんだぞ。」と言い、部屋を後にした。



 千春は、タイミングの悪い、親友のサプライズに困り果てて泣きそうになってしまった。

 隣に座る秋文を、横目でちらりと見ると、不機嫌そうに顔を背けている彼の姿があった。

 それを見て、心の中でため息をつきながらも、浴衣姿の彼に触れたいな、なんて思ってしまう自分は、彼に惚れすぎているなーと感じてしまった。



 千春は、どう解決しようかと静かになった部屋でひとり考えたのだった。